2007年 06月 21日
子どものこだわりを上手に生かす |
第37章
軽度発達障害の中に、高機能自閉症という障害があります(文献)。
知的な遅れのない自閉症がそう呼ばれます。
自閉症には、(1)対人的相互反応における質的な障害、(2)コミュニケーションの質的な障害、(3)儀式的な反復行動や同一性保持傾向、といった3つの症状があります。
これらの症状は生後3歳以前に現れていることが多く、熟練した児童精神科医や小児科医などによって診断されます。
この障害は、親の育て方の問題ではなく、中枢神経系に何らかの原因があるとされます。
高機能自閉症に近いけれどもコミュニケーションの障害が比較的軽い人は、アスペルガー症候群ないしアスペルガー障害と診断されることがあります。
また、自閉症とアスペルガー障害等を一括して広汎性発達障害と呼ぶこともあります。
(1)対人的相互反応における質的な障害は、基本的に一人遊びが多く、他者と目と目で見つめ合わない、興味のある物を他者に見せたり指さしたりして感動や喜びを他者と共有することをしない、同年代の子どもたちと仲間関係を作ることができない、といった行動の特徴として現れます。
(2)コミュニケーションの質的な障害は、話しことばの発達が遅れ、幼児期に他者のことばをおうむ返しするだけの期間がとても長い、他者に話しかけて会話を開始し、話題を維持し、うなずきや質問などをして会話を継続することができない、特定の話題にこだわりすぎる、変化に富んだごっこ遊びや社会的ルールのある遊びができない、といった行動の特徴として現れます。
(3)儀式的な反復行動や同一性保持傾向は、柔軟な想像力に欠ける一方、特定の物品や対象に強すぎる愛着を示し、手放せない、特定の有用でない習慣や儀式や手順にかたくなにこだわる、手や指をパタパタさせたりねじ曲げたりするなどの反復的運動がある、といった行動として現れます。また、ある種の感覚に過敏性や鈍感過ぎる部分があるのではないかと、推測されることもあります。
一方、自閉症児は、特定の分野の知識をたくさん持っていたりして、物知り博士のように見えることがあります。
たとえば、JR車両の種類を全部知っていたり、大相撲の力士名を全部言えたり、何年も先の月日の曜日を正確に言えたり、独特なタッチの絵を精密に描いたり、長い交響曲を正確に鼻歌で歌えたりといったようなことです。
これだけ記憶力が良いのだから、さぞかし良好な社会的交流の能力も隠されていて、そのうちきっと開花するだろうと期待されてしまうこともあります。
しかし、自閉症児には他者の信念や気持ちを読むことが難しいという根本的な障害があることがわかっています。
これは「心の理論」の障害と言われます。
たとえば、「ハルカは人形で遊んでいました。ハルカは用事を思い出したので人形をバスケットの中に入れて部屋を出ていきました。そこへユキエが入ってきて、人形をバスケットから箱の中に移して、また部屋を出ていきました。ハルカが用事からもどってきました。また人形で遊ぼうと思っています。さあ、ハルカはバスケットの中と箱の中のどちらをさがすでしょうか」と質問されたとき、自閉症児は「箱の中」と答える傾向が大きいのです。
正解は「バスケットの中」です。これは、何らかの先天的理由のために、他者の視点を自己の思考の枠組みの中に取り入れることが難しいという障害をもつからであると考えられています。
また、ウイングという研究者は、自閉症を対人関係により次の3タイプに分類しています。
(1)孤立型:特定の事物に対するこだわりが強く、それが阻止されると容易にパニックを起こします。過敏で混乱しやすいので、事前にスケジュールを書いて示したり、出かける際の目的地を写真や文字で知らせたり、部屋の模様替えをする前に見取り図を描いて示したりして承諾を得ることが、有効な対処法です。
(2)受動型:受け身的で、指示があれば動けますが、なければ動けません。パニックを起こすのは、たいてい周りの人たちがたくさん指示を出し過ぎて、負荷がかかっている場合です。大人しいので目立たず、教室で空白の時間を過ごしてしまうことが心配されます。ときどき声をかけ、課題に取り組んでいることを確認することが必要です。
(3)積極奇異型:知的に高い自閉症児に多く、一方的に自分の興味のあることについてのみ話し続けたり質問したりします。知的に高いために個別教育がなされにくく、偏った知識や振る舞いを勝手に身につけてしまい、奇異感を強めてしまうことがあります。人が言ってほしくないことをわざと言ったりして、挑発するように見えることもあります。ですから、教科学習だけに力を入れるのでなく、社会常識や社会的スキルを個別的に丁寧に教えることが必要です。
知的な遅れのある自閉症児の教育については、これまでにかなり研究されてきており、幼稚園・保育園では統合保育、一般学校では情緒障害特殊学級、知的障害特殊学級、ならびにこれらの学級と通常学級との通級システム、特別学校としては知的障害養護学校等での教育が充実し、学校卒業後、一般就労ができている人も少なからずみられます。
一方、通常学級における高機能自閉症児の教育方法は、近年本格的に検討されるようになったばかりです。
それらの基本は次のようなものです。
(1)幼少期から本人の興味関心に合わせて楽しく遊んであげることが大切です。その中で人に対する関心や人と関わるスキルを覚えていくのです。楽しい中でも、あいさつ、事物の要求、許可の要求、感謝、待つこと、謝罪などの当たり前の社会的スキルはしっかりと教えます。
(2)作業や生活の手順表などの視覚刺激を活用して、理解しやすく活動しやすい環境を用意することです。彼らの多くは視覚認知に強いのです。
(3)よい行動をおこなったら、本人が喜ぶやり方できちんとほめてあげることです。
(4)将来の職業と生活のために物づくりや家事の技能と態度を育てておきます。
(5)こだわりは彼らの生き甲斐です。禁止するのではなく活用する方法を考えます。才能や趣味につながるかもしれません。しかし、低学年のときに100点を取ったり1番になったりしたときにあまりほめすぎるとそれに極端にこだわるようになり、年長になるにつれてそれを得ることが難しくなると、いちいちパニックを起こして周囲の人を困らせるようになることがあります。それを予防するためには、日頃から「点数は何点でもいい。頑張ったことがえらい」と言ってほめてあげるのがよいと思います。
自閉症児は想像力には弱いのですが、おきまりのパタンやルールの単純記憶は強いのです。
ですから、結果的に儀式や手順にこだわるように見えるのです。
ところで、教会の礼拝は儀式と深い関係があります。
自閉症児は、丁寧に教えて少しでも覚えたらほめるというやり方を続ければ、「主の祈り」も「使徒信条」も賛美歌もお祈りもよく覚えます。
聖書のことばも一般の人と変わらないぐらいよく覚えることがあります。
教会の文化は自閉症児・者に優しい、と私は思うのです。
「そうは言っても、理解できているかどうか」と批判的に見る人もいるかもしれません。
しかし、「福音は、ユダヤ人をはじめギリシヤ人にも、信じるすべての人にとって、救いを得させる神の力(ローマ1:16)」なのではありませんか。
教会の礼拝や奉仕の中で、自閉症児・者に役割を提供して優しく教えたら、徐々に慣れて活躍してくれるはずです。
障害のあるなしにかかわらず、次のことばは誰にとっても常に有効です。
「兄弟愛をもって心から互いに愛し合い、尊敬をもって互いに人を自分よりまさっていると思いなさい。」(ローマ12:10)
文献
内山登紀夫ほか(2002):高機能自閉症・アスペルガー症候群入門-正しい理解
と対応のために.中央法規出版.
杉山登志郎(2005):アスペルガー症候群と高機能自閉症-青年期の社会性のた
めに.学習研究社
軽度発達障害の中に、高機能自閉症という障害があります(文献)。
知的な遅れのない自閉症がそう呼ばれます。
自閉症には、(1)対人的相互反応における質的な障害、(2)コミュニケーションの質的な障害、(3)儀式的な反復行動や同一性保持傾向、といった3つの症状があります。
これらの症状は生後3歳以前に現れていることが多く、熟練した児童精神科医や小児科医などによって診断されます。
この障害は、親の育て方の問題ではなく、中枢神経系に何らかの原因があるとされます。
高機能自閉症に近いけれどもコミュニケーションの障害が比較的軽い人は、アスペルガー症候群ないしアスペルガー障害と診断されることがあります。
また、自閉症とアスペルガー障害等を一括して広汎性発達障害と呼ぶこともあります。
(1)対人的相互反応における質的な障害は、基本的に一人遊びが多く、他者と目と目で見つめ合わない、興味のある物を他者に見せたり指さしたりして感動や喜びを他者と共有することをしない、同年代の子どもたちと仲間関係を作ることができない、といった行動の特徴として現れます。
(2)コミュニケーションの質的な障害は、話しことばの発達が遅れ、幼児期に他者のことばをおうむ返しするだけの期間がとても長い、他者に話しかけて会話を開始し、話題を維持し、うなずきや質問などをして会話を継続することができない、特定の話題にこだわりすぎる、変化に富んだごっこ遊びや社会的ルールのある遊びができない、といった行動の特徴として現れます。
(3)儀式的な反復行動や同一性保持傾向は、柔軟な想像力に欠ける一方、特定の物品や対象に強すぎる愛着を示し、手放せない、特定の有用でない習慣や儀式や手順にかたくなにこだわる、手や指をパタパタさせたりねじ曲げたりするなどの反復的運動がある、といった行動として現れます。また、ある種の感覚に過敏性や鈍感過ぎる部分があるのではないかと、推測されることもあります。
一方、自閉症児は、特定の分野の知識をたくさん持っていたりして、物知り博士のように見えることがあります。
たとえば、JR車両の種類を全部知っていたり、大相撲の力士名を全部言えたり、何年も先の月日の曜日を正確に言えたり、独特なタッチの絵を精密に描いたり、長い交響曲を正確に鼻歌で歌えたりといったようなことです。
これだけ記憶力が良いのだから、さぞかし良好な社会的交流の能力も隠されていて、そのうちきっと開花するだろうと期待されてしまうこともあります。
しかし、自閉症児には他者の信念や気持ちを読むことが難しいという根本的な障害があることがわかっています。
これは「心の理論」の障害と言われます。
たとえば、「ハルカは人形で遊んでいました。ハルカは用事を思い出したので人形をバスケットの中に入れて部屋を出ていきました。そこへユキエが入ってきて、人形をバスケットから箱の中に移して、また部屋を出ていきました。ハルカが用事からもどってきました。また人形で遊ぼうと思っています。さあ、ハルカはバスケットの中と箱の中のどちらをさがすでしょうか」と質問されたとき、自閉症児は「箱の中」と答える傾向が大きいのです。
正解は「バスケットの中」です。これは、何らかの先天的理由のために、他者の視点を自己の思考の枠組みの中に取り入れることが難しいという障害をもつからであると考えられています。
また、ウイングという研究者は、自閉症を対人関係により次の3タイプに分類しています。
(1)孤立型:特定の事物に対するこだわりが強く、それが阻止されると容易にパニックを起こします。過敏で混乱しやすいので、事前にスケジュールを書いて示したり、出かける際の目的地を写真や文字で知らせたり、部屋の模様替えをする前に見取り図を描いて示したりして承諾を得ることが、有効な対処法です。
(2)受動型:受け身的で、指示があれば動けますが、なければ動けません。パニックを起こすのは、たいてい周りの人たちがたくさん指示を出し過ぎて、負荷がかかっている場合です。大人しいので目立たず、教室で空白の時間を過ごしてしまうことが心配されます。ときどき声をかけ、課題に取り組んでいることを確認することが必要です。
(3)積極奇異型:知的に高い自閉症児に多く、一方的に自分の興味のあることについてのみ話し続けたり質問したりします。知的に高いために個別教育がなされにくく、偏った知識や振る舞いを勝手に身につけてしまい、奇異感を強めてしまうことがあります。人が言ってほしくないことをわざと言ったりして、挑発するように見えることもあります。ですから、教科学習だけに力を入れるのでなく、社会常識や社会的スキルを個別的に丁寧に教えることが必要です。
知的な遅れのある自閉症児の教育については、これまでにかなり研究されてきており、幼稚園・保育園では統合保育、一般学校では情緒障害特殊学級、知的障害特殊学級、ならびにこれらの学級と通常学級との通級システム、特別学校としては知的障害養護学校等での教育が充実し、学校卒業後、一般就労ができている人も少なからずみられます。
一方、通常学級における高機能自閉症児の教育方法は、近年本格的に検討されるようになったばかりです。
それらの基本は次のようなものです。
(1)幼少期から本人の興味関心に合わせて楽しく遊んであげることが大切です。その中で人に対する関心や人と関わるスキルを覚えていくのです。楽しい中でも、あいさつ、事物の要求、許可の要求、感謝、待つこと、謝罪などの当たり前の社会的スキルはしっかりと教えます。
(2)作業や生活の手順表などの視覚刺激を活用して、理解しやすく活動しやすい環境を用意することです。彼らの多くは視覚認知に強いのです。
(3)よい行動をおこなったら、本人が喜ぶやり方できちんとほめてあげることです。
(4)将来の職業と生活のために物づくりや家事の技能と態度を育てておきます。
(5)こだわりは彼らの生き甲斐です。禁止するのではなく活用する方法を考えます。才能や趣味につながるかもしれません。しかし、低学年のときに100点を取ったり1番になったりしたときにあまりほめすぎるとそれに極端にこだわるようになり、年長になるにつれてそれを得ることが難しくなると、いちいちパニックを起こして周囲の人を困らせるようになることがあります。それを予防するためには、日頃から「点数は何点でもいい。頑張ったことがえらい」と言ってほめてあげるのがよいと思います。
自閉症児は想像力には弱いのですが、おきまりのパタンやルールの単純記憶は強いのです。
ですから、結果的に儀式や手順にこだわるように見えるのです。
ところで、教会の礼拝は儀式と深い関係があります。
自閉症児は、丁寧に教えて少しでも覚えたらほめるというやり方を続ければ、「主の祈り」も「使徒信条」も賛美歌もお祈りもよく覚えます。
聖書のことばも一般の人と変わらないぐらいよく覚えることがあります。
教会の文化は自閉症児・者に優しい、と私は思うのです。
「そうは言っても、理解できているかどうか」と批判的に見る人もいるかもしれません。
しかし、「福音は、ユダヤ人をはじめギリシヤ人にも、信じるすべての人にとって、救いを得させる神の力(ローマ1:16)」なのではありませんか。
教会の礼拝や奉仕の中で、自閉症児・者に役割を提供して優しく教えたら、徐々に慣れて活躍してくれるはずです。
障害のあるなしにかかわらず、次のことばは誰にとっても常に有効です。
「兄弟愛をもって心から互いに愛し合い、尊敬をもって互いに人を自分よりまさっていると思いなさい。」(ローマ12:10)
文献
内山登紀夫ほか(2002):高機能自閉症・アスペルガー症候群入門-正しい理解
と対応のために.中央法規出版.
杉山登志郎(2005):アスペルガー症候群と高機能自閉症-青年期の社会性のた
めに.学習研究社
by ybible63
| 2007-06-21 16:00
| ★教育シリーズ(子育て)