アピールの真の意味は？

＊文章中に登場するすべての事例は、個人情報保護の関係で実在の人物そのものではありませんが、著者が取材した多くの人々からヒントを得て新たに創作したものです。

教育シリーズ　第44回
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　佐竹　真次

　数年前のことです。
ある市の成人式で市長に向かってクラッカーを鳴らした若者たちが逮捕されました。
取り調べで彼らは「目立ちたかった」「注目されたかった」というようなことを言っていたそうです。
その後、各地の成人式で似たような事件が連鎖反応的に起こるようになりました。
特別な才能や能力があれば、目立ったり注目されたりもしやすいのかもしれませんが、そういったものがない場合には、「他人に迷惑をかけてでも目立とう」と考えてしまうのかもしれません。
　一方、ある中学校で１人の生徒が人や物に対して暴力をふるい、他の生徒たちや教師たちを振り回していました。
他者のたじろぐ様子がその生徒にとってはおもしろいようでした。
彼の家庭は崩壊していました。
しかし、よく調べてみると、彼の背後には彼の暴力行動を賞賛する非行少年のグループがいることがわかりました。
親も教師たちも根気よく彼と話し合いを続けました。
トラブルは長く続きましたが、彼は徐々に非行少年たちから離れていき、生活に落ち着きを取り戻していきました。
　数年前、17歳の連続犯罪が起きた直後、わが子の通っていた中学校と高校のＰＴＡ研修会への保護者出席率が急増したことがありました。
毎日の子育てから手を抜いているのではと不安になり、参考となる情報や助言を求めてきた保護者も少なくないと思われました。
愛情の手抜き環境の中で、子どもが極度の淋しさや孤独感、被虐待体験などをもつと、行動でアピールしてくることがあります。
そのような場合は、表出されることばを傾聴し、行動を観察しながらアピールの真の意味を探る必要があります。
手間のかかる作業です。しかし、アピールの真の意味がわかると、それに対して適切な対応を選択し実行することができるようになります。
　子どもたちのアピールの真の意味は、「自分の存在を認めてほしい」というものかもしれません。
　相手の存在を認めるには、ある一定の時間を共に過ごしてみることが必要です。
聖書には「見よ。兄弟たちが一つになって共に住むことは、なんというしあわせ、なんという楽しさであろう。それは頭の上にそそがれたとうとい油のようだ。（中略）主がそこにとこしえのいのちの祝福を命じられたからである。」（詩篇133:1-3）とあります。
実に単純なことのようではありますが、人間がしあわせに生きるためには、それがどれだけ重要なことであるかを物語っています。