2006年 03月 22日
教育シリーズ 第19回 |
*文章中に登場するすべての事例は、個人情報保護の関係で実在の人物そのものではありませんが、著者が取材した多くの人々からヒントを得て新たに創作したものです。
自動思考に気をつけて
佐竹 真次
4月の末、ある小学校にカウンセリングに出向いたときのことです。
5年生のA子ちゃんという女の子がベソをかきながら相談にきました。
A子ちゃんは4月のはじめに転校してきたばかりの子でした。
「どうして泣いているの?」と聞きましたら、教えてくれました。
そんなに親しくないB子ちゃんから「みんながA子ちゃんのことを嫌ってるよ」と言われたというのです。
その「みんな」ということばに愕然としたらしいのです。
慣れない集団の中で、毎日緊張して一生懸命頑張っていたわけですから、そのことばは強烈だったのでしょう。
それで、突然自信をなくしてしまったのでしょう。
そのクラスには36人の児童がいるそうです。
「何人に言われたの?」と私が問いますと、「1人に言われた」といいます。
「『みんな』っていうのが何人かわからないねえ。
はっきりわかる方法はないかしら」と私は言ってみました。
しかし、話はなかなか深まらず、A子ちゃんがこれまでに頑張ってきたことをいろいろと聞いて、たくさんほめてはあげましたが、結局、悩みは解決しないままA子ちゃんは教室に帰りました。ただ、担任の先生には、A子ちゃんが孤立しないように優しくて安定した性格の子どもたちを周囲に配置していただくよう、お願いしました。
数日後にA子ちゃんと再会し、その後の展開を聞きました。
A子ちゃんは目を輝かせながら次のように話してくれました。
先日のカウンセリングのあと、A子ちゃんはそれを比較的親しいC子ちゃんという友達に話したそうです。
そのC子ちゃんは感心な子どもで、「じゃあ、調べてあげる」と言ったそうです。
本当に密かにアンケートをとって調べてくれたそうなのです。
その結果、「好き」という人が10人、「嫌いじゃない」という人が24人、「嫌い」という人が1人だったのだそうです。
C子ちゃんからそれを聞いたとたん、A子ちゃんは一気に嬉しくなって、悩みがなくなったというのです。
これはどこにでもありがちな話のようですが、実は大切な真理を含んでいます。
以下に簡単に説明してみます。
「みんなが○○しているよ」のようなことばは、いわば「金縛り用語」ともいえます。
とくに「みんなが嫌ってるよ」といった極端に否定的なことばを聞くと、誰でも「自動思考」に陥りやすくなります。
「すべてがだめだよ」とか「人生真っ暗闇だ」とか「あんたのすべてが欠点だ」とか、あげくのはてには「欠点が服着て歩いてる」などと言われてしまうと、そのことばが頭の中に貼りついてしまい、堂堂巡りを繰り返し、落ち込みが激しくなり、その落ち込みを自分だけではどうしようもなくなってしまいます。
それが「自動思考」です。
それは、一般的に「思い込み」とか「マイナス思考」といわれているものに近いと思います。
ところで、偏った思い込みを修正して心の問題の解決をはかる方法として、認知療法(文献)という技法が最近よく利用されるようになっています。
認知療法では、「自動思考」に陥ったときにはどうしたらよいかを、次の3つのステップを用いて教えてくれます。
1)「そう考える根拠は何?」
「みんなが○○しているよ」と言われたら、「その根拠は何?」と聞くのです。よい意味で疑ってみるのです。そして「みんなとは何パーセントの人たちですか?」と具体的に調べるわけです。
2)「別の視点からの見方はできない?」
その根拠や「みんな」というものを調べた後に、「新たに別な角度から見られませんか?」と聞いてみるのです。
かりに35人のうち30人が自分を嫌いだとしても、あとの5人が自分を好いていてくれたら、決して「みんな」が嫌っていることにはなりません。
そして「5人もの人が自分を好きだと言ってくれている、という事実の方に目を向けられませんか?」と聞きます。
そのように別な角度から見ることができるようになった場合に、状況を打開する鍵みたいなものが見つかることがあります。
3)「仮に別の視点からの見方が正しいとしたら、考えはどう変わる?」
つぎに、「もしその別な見方をしたら、あなたの考えや気持ちはどう変わりますか?」または「あなたの生活がどう変わりますか?」と聞きます。
たとえば、35人のうち5人が自分の味方だとすれば、その5人と何とか今の辛い状況を分かち合って、あるいは助けてもらって、とりあえず生きていけるんじゃないかという見通しが出てきます。
そうするとだんだん気持ちが楽になって、表情も心も明るくなってきます。
それと同時に、「あ、あの人、だんだん明るくなってきた」と周りの人たちが気づきはじめます。そして、今まであまり関係のなかった人が少しずつ好ましく接近してきたりするということが起こります。
こうして、生活が徐々に生き生きと楽しいものに変化していくのです。
このように、認知療法の3つのステップは、「自動思考」から脱却し、新しい自由な思考をすることができるように助けてくれます。
この3つのステップは、いろいろな悩みや問題の解決に簡単に応用することができます。
聖書もそのような主体的な判断を奨励しています。
「なぜ自分から進んで、何が正しいかを判断しないのですか。」(ルカ12:57)
文献
アーサー・フリーマンほか(高橋祥友 訳)(1993):認知療法臨床ハンドブック.
金剛出版.
自動思考に気をつけて
佐竹 真次
4月の末、ある小学校にカウンセリングに出向いたときのことです。
5年生のA子ちゃんという女の子がベソをかきながら相談にきました。
A子ちゃんは4月のはじめに転校してきたばかりの子でした。
「どうして泣いているの?」と聞きましたら、教えてくれました。
そんなに親しくないB子ちゃんから「みんながA子ちゃんのことを嫌ってるよ」と言われたというのです。
その「みんな」ということばに愕然としたらしいのです。
慣れない集団の中で、毎日緊張して一生懸命頑張っていたわけですから、そのことばは強烈だったのでしょう。
それで、突然自信をなくしてしまったのでしょう。
そのクラスには36人の児童がいるそうです。
「何人に言われたの?」と私が問いますと、「1人に言われた」といいます。
「『みんな』っていうのが何人かわからないねえ。
はっきりわかる方法はないかしら」と私は言ってみました。
しかし、話はなかなか深まらず、A子ちゃんがこれまでに頑張ってきたことをいろいろと聞いて、たくさんほめてはあげましたが、結局、悩みは解決しないままA子ちゃんは教室に帰りました。ただ、担任の先生には、A子ちゃんが孤立しないように優しくて安定した性格の子どもたちを周囲に配置していただくよう、お願いしました。
数日後にA子ちゃんと再会し、その後の展開を聞きました。
A子ちゃんは目を輝かせながら次のように話してくれました。
先日のカウンセリングのあと、A子ちゃんはそれを比較的親しいC子ちゃんという友達に話したそうです。
そのC子ちゃんは感心な子どもで、「じゃあ、調べてあげる」と言ったそうです。
本当に密かにアンケートをとって調べてくれたそうなのです。
その結果、「好き」という人が10人、「嫌いじゃない」という人が24人、「嫌い」という人が1人だったのだそうです。
C子ちゃんからそれを聞いたとたん、A子ちゃんは一気に嬉しくなって、悩みがなくなったというのです。
これはどこにでもありがちな話のようですが、実は大切な真理を含んでいます。
以下に簡単に説明してみます。
「みんなが○○しているよ」のようなことばは、いわば「金縛り用語」ともいえます。
とくに「みんなが嫌ってるよ」といった極端に否定的なことばを聞くと、誰でも「自動思考」に陥りやすくなります。
「すべてがだめだよ」とか「人生真っ暗闇だ」とか「あんたのすべてが欠点だ」とか、あげくのはてには「欠点が服着て歩いてる」などと言われてしまうと、そのことばが頭の中に貼りついてしまい、堂堂巡りを繰り返し、落ち込みが激しくなり、その落ち込みを自分だけではどうしようもなくなってしまいます。
それが「自動思考」です。
それは、一般的に「思い込み」とか「マイナス思考」といわれているものに近いと思います。
ところで、偏った思い込みを修正して心の問題の解決をはかる方法として、認知療法(文献)という技法が最近よく利用されるようになっています。
認知療法では、「自動思考」に陥ったときにはどうしたらよいかを、次の3つのステップを用いて教えてくれます。
1)「そう考える根拠は何?」
「みんなが○○しているよ」と言われたら、「その根拠は何?」と聞くのです。よい意味で疑ってみるのです。そして「みんなとは何パーセントの人たちですか?」と具体的に調べるわけです。
2)「別の視点からの見方はできない?」
その根拠や「みんな」というものを調べた後に、「新たに別な角度から見られませんか?」と聞いてみるのです。
かりに35人のうち30人が自分を嫌いだとしても、あとの5人が自分を好いていてくれたら、決して「みんな」が嫌っていることにはなりません。
そして「5人もの人が自分を好きだと言ってくれている、という事実の方に目を向けられませんか?」と聞きます。
そのように別な角度から見ることができるようになった場合に、状況を打開する鍵みたいなものが見つかることがあります。
3)「仮に別の視点からの見方が正しいとしたら、考えはどう変わる?」
つぎに、「もしその別な見方をしたら、あなたの考えや気持ちはどう変わりますか?」または「あなたの生活がどう変わりますか?」と聞きます。
たとえば、35人のうち5人が自分の味方だとすれば、その5人と何とか今の辛い状況を分かち合って、あるいは助けてもらって、とりあえず生きていけるんじゃないかという見通しが出てきます。
そうするとだんだん気持ちが楽になって、表情も心も明るくなってきます。
それと同時に、「あ、あの人、だんだん明るくなってきた」と周りの人たちが気づきはじめます。そして、今まであまり関係のなかった人が少しずつ好ましく接近してきたりするということが起こります。
こうして、生活が徐々に生き生きと楽しいものに変化していくのです。
このように、認知療法の3つのステップは、「自動思考」から脱却し、新しい自由な思考をすることができるように助けてくれます。
この3つのステップは、いろいろな悩みや問題の解決に簡単に応用することができます。
聖書もそのような主体的な判断を奨励しています。
「なぜ自分から進んで、何が正しいかを判断しないのですか。」(ルカ12:57)
文献
アーサー・フリーマンほか(高橋祥友 訳)(1993):認知療法臨床ハンドブック.
金剛出版.
by ybible63
| 2006-03-22 10:21
| ★教育シリーズ(子育て)