2006年 03月 22日
教育シリーズ 第17回 |
*文章中に登場するすべての事例は、個人情報保護の関係で実在の人物そのものではありませんが、著者が取材した多くの人々からヒントを得て新たに創作したものです。
傾聴のコツ
佐竹 真次
わが家の壁に、あることばの額が掛けてあります。
それには「キリストは我が家の主。食卓の見えざる賓客。あらゆる会話の、沈黙せる傾聴者」と書かれています。
この額は、私たちが結婚したときに、ある牧師先生から贈っていただいたものです。
「傾聴」とは、文字通り、心を傾けて人のことばを聴くことです。
いや、むしろ人の「心」を聴くこと、と言った方がいいかもしれません。
もう十数年も昔のことです。
夕方、私が帰宅すると、妻が「おかえりなさい」といってくれました。
生後8カ月の娘もそれを真似するかのように、微笑みながら「アー、アー」と話しかけてくれたものでした。
もちろん、私は「はーい、ただいま」と返事をします。
そうすると、娘はたちまち満面の笑みを浮かべて、さらに大きな声で「アー、アー」と話しかけてきます。
私はまたまた「はーい、パパだよ」と返事をします。
そんな他愛のないやりとりを飽きるまで続けると、娘の関心は自然に妻や玩具の方に移っていき、私は解放されます。
今でも、この場面は昨日のことのように鮮明に思い出されます。
こんなことは、一見すると無意味なやりとりに見えるかもしれませんが、これを何度も繰り返すことで、乳幼児は「自分の働きかけに人は誠実に応えてくれるものだ」「人は裏切らないものだ」「人は信じていいものだ」という「基本的信頼感」(文献)を獲得していくといわれます。
この「基本的信頼感」とはエリクソンが彼の発達理論の中で唱えたことばとして有名です。
このようなキャッチボールをたくさん経験すればするほど、その絆はさらに強くなっていくように、私には思われます。
決して特別なことをする必要はなく、キャッチボールの時間を惜しまないことが最も大切であると思えるのです。そして、このキャッチボールの感覚こそが「傾聴」の基本であると、私は考えるのです。
話を「傾聴」するための具体的なコツは、カウンセリングの基礎的なスキル(文献)と同じです。
1.まず、包みこむような温かい雰囲気をつくります。
2.開かれた質問をするように心がけます。開かれた質問とは、答えが「はい」
「いいえ」で終わってしまうような質問(閉じた質問)ではなく、相手が
自由に陳述できるような質問のことです。話を始めてもらうときのきっか
けとして役に立ちます。
3.相手の発言の末尾でうなずいてあげます。たいていは相手の話の末尾でう
なずくだけで、相手はどんどん話してくれます。途中でこちらが話題を出
したくなっても、相手の話の腰を折らないことが大切です。また、うなず
きすぎても不自然になることがありますから、間の取り方にも気をつける
必要があります。
4.相手の発言をときどき繰り返してあげます。しばしば話が休止し、途切れ
ることがあります。しかも、こちらが何と返事をすればいいのかわからな
いことがあります。つまり、不自然な間が空いてしまう場合です。そんな
ときに、相手の話の一部を繰り返してあげると、相手も安心し、次の展開
につなげやすくなります。単なるおうむ返しでなく、相手の気持ちを受け
止めながら繰り返すことが大切です。
5.聴いたことを要約して伝え返してあげます。話を要約してもらうと、「こ
んなに親身になって聴いてもらえていたのか」と感動するとともに、自分
の考えを確認することができます。
6.問題を明確化するのを手伝います。考えが混乱し不安が高まっている場合
に、私たちは悩みます。しかし、話をすすめていくと、相手の気持ちと問
題が整理され、明確になってきます。そして明確化された問題を共に丁寧
に確認し合うのです。そうすると解決策が出てきます。
7.相手自身の解決策を尊重し、解決に向かう姿を支持します。本人が解決策
を考えていることが意外と多いので、それを引き出し、優先します。こち
らの解決策を押しつけてしまうと、相手の主体的な決断のチャンスを奪っ
てしまい、結局、真の解決にいたらなくなります。
8.ちょっと難しいことばですが、「逆転移」しないことです。相手が深刻な
話をしているうちに、こちらに向かって疑いや怒りや攻撃、逆に、愛着や
賞賛などの感情を投げかけてくることがあります。これを「感情転移」と
言いますが、本来は他の誰かに向けたかった感情がたまたまこちらに向け
られている場合が多いのです。一方、「逆転移」とは、相手からの「感情
転移」によって、こちらの不安定な感情に火をつけられて、怒りが込み上
げてきたり、逆に、同情しすぎてしまったりすることです。こうなると、
捨てぜりふを返してしまったり、一方的な指導をしてしまったり、逆に、
相手に振り回されてしまったりします。この現象は、自分が育てられた育
児法や教育法、あるいは自分の経験を反射的に応用しようとする、聴き手
の個人的な傾向によるものと思われます。「逆転移」を予防するには、自
分の感情を要所要所で見つめ直し、感情の高ぶりに自分の言動があまり支
配されすぎないように気をつけることです。
これだけの条件を備えた「傾聴」であれば、カウンセリングとしてもかなりよい水準になると思います。
日常的に子どもの話を聴くには、1~4で十分です。
昔から「話し上手は聞き上手」といわれていますが、時間配分としては、9割を聴くことに徹するぐらいの気持ちがあると、ちょうどバランスのとれたコミュニケーションになるように思われます。また、人の幸福はものごとをどのように意味づけるかにかかっているといわれます。あらゆることをプラスに意味づける姿勢があると、人の話を聴きやすくなります。
イエス様に「傾聴」していただいたら、どのような返事が返ってくるのでしょうか。
「わたしを呼べ。そうすれば、わたしは、あなたに答え、あなたの知らない、理解を越えた大いなる事を、あなたに告げよう」(エレミヤ33:3)と書かれているように、聖書は傾聴者の応答の宝庫といってもよいかもしれません。
文献
川端啓之ほか(1995):ライフサイクルからみた発達臨床心理学.ナカニシヤ出
版.
山本次郎(1999):カウンセリングの実技がわかる本 上巻.コスモス・ライブラ
リー.
傾聴のコツ
佐竹 真次
わが家の壁に、あることばの額が掛けてあります。
それには「キリストは我が家の主。食卓の見えざる賓客。あらゆる会話の、沈黙せる傾聴者」と書かれています。
この額は、私たちが結婚したときに、ある牧師先生から贈っていただいたものです。
「傾聴」とは、文字通り、心を傾けて人のことばを聴くことです。
いや、むしろ人の「心」を聴くこと、と言った方がいいかもしれません。
もう十数年も昔のことです。
夕方、私が帰宅すると、妻が「おかえりなさい」といってくれました。
生後8カ月の娘もそれを真似するかのように、微笑みながら「アー、アー」と話しかけてくれたものでした。
もちろん、私は「はーい、ただいま」と返事をします。
そうすると、娘はたちまち満面の笑みを浮かべて、さらに大きな声で「アー、アー」と話しかけてきます。
私はまたまた「はーい、パパだよ」と返事をします。
そんな他愛のないやりとりを飽きるまで続けると、娘の関心は自然に妻や玩具の方に移っていき、私は解放されます。
今でも、この場面は昨日のことのように鮮明に思い出されます。
こんなことは、一見すると無意味なやりとりに見えるかもしれませんが、これを何度も繰り返すことで、乳幼児は「自分の働きかけに人は誠実に応えてくれるものだ」「人は裏切らないものだ」「人は信じていいものだ」という「基本的信頼感」(文献)を獲得していくといわれます。
この「基本的信頼感」とはエリクソンが彼の発達理論の中で唱えたことばとして有名です。
このようなキャッチボールをたくさん経験すればするほど、その絆はさらに強くなっていくように、私には思われます。
決して特別なことをする必要はなく、キャッチボールの時間を惜しまないことが最も大切であると思えるのです。そして、このキャッチボールの感覚こそが「傾聴」の基本であると、私は考えるのです。
話を「傾聴」するための具体的なコツは、カウンセリングの基礎的なスキル(文献)と同じです。
1.まず、包みこむような温かい雰囲気をつくります。
2.開かれた質問をするように心がけます。開かれた質問とは、答えが「はい」
「いいえ」で終わってしまうような質問(閉じた質問)ではなく、相手が
自由に陳述できるような質問のことです。話を始めてもらうときのきっか
けとして役に立ちます。
3.相手の発言の末尾でうなずいてあげます。たいていは相手の話の末尾でう
なずくだけで、相手はどんどん話してくれます。途中でこちらが話題を出
したくなっても、相手の話の腰を折らないことが大切です。また、うなず
きすぎても不自然になることがありますから、間の取り方にも気をつける
必要があります。
4.相手の発言をときどき繰り返してあげます。しばしば話が休止し、途切れ
ることがあります。しかも、こちらが何と返事をすればいいのかわからな
いことがあります。つまり、不自然な間が空いてしまう場合です。そんな
ときに、相手の話の一部を繰り返してあげると、相手も安心し、次の展開
につなげやすくなります。単なるおうむ返しでなく、相手の気持ちを受け
止めながら繰り返すことが大切です。
5.聴いたことを要約して伝え返してあげます。話を要約してもらうと、「こ
んなに親身になって聴いてもらえていたのか」と感動するとともに、自分
の考えを確認することができます。
6.問題を明確化するのを手伝います。考えが混乱し不安が高まっている場合
に、私たちは悩みます。しかし、話をすすめていくと、相手の気持ちと問
題が整理され、明確になってきます。そして明確化された問題を共に丁寧
に確認し合うのです。そうすると解決策が出てきます。
7.相手自身の解決策を尊重し、解決に向かう姿を支持します。本人が解決策
を考えていることが意外と多いので、それを引き出し、優先します。こち
らの解決策を押しつけてしまうと、相手の主体的な決断のチャンスを奪っ
てしまい、結局、真の解決にいたらなくなります。
8.ちょっと難しいことばですが、「逆転移」しないことです。相手が深刻な
話をしているうちに、こちらに向かって疑いや怒りや攻撃、逆に、愛着や
賞賛などの感情を投げかけてくることがあります。これを「感情転移」と
言いますが、本来は他の誰かに向けたかった感情がたまたまこちらに向け
られている場合が多いのです。一方、「逆転移」とは、相手からの「感情
転移」によって、こちらの不安定な感情に火をつけられて、怒りが込み上
げてきたり、逆に、同情しすぎてしまったりすることです。こうなると、
捨てぜりふを返してしまったり、一方的な指導をしてしまったり、逆に、
相手に振り回されてしまったりします。この現象は、自分が育てられた育
児法や教育法、あるいは自分の経験を反射的に応用しようとする、聴き手
の個人的な傾向によるものと思われます。「逆転移」を予防するには、自
分の感情を要所要所で見つめ直し、感情の高ぶりに自分の言動があまり支
配されすぎないように気をつけることです。
これだけの条件を備えた「傾聴」であれば、カウンセリングとしてもかなりよい水準になると思います。
日常的に子どもの話を聴くには、1~4で十分です。
昔から「話し上手は聞き上手」といわれていますが、時間配分としては、9割を聴くことに徹するぐらいの気持ちがあると、ちょうどバランスのとれたコミュニケーションになるように思われます。また、人の幸福はものごとをどのように意味づけるかにかかっているといわれます。あらゆることをプラスに意味づける姿勢があると、人の話を聴きやすくなります。
イエス様に「傾聴」していただいたら、どのような返事が返ってくるのでしょうか。
「わたしを呼べ。そうすれば、わたしは、あなたに答え、あなたの知らない、理解を越えた大いなる事を、あなたに告げよう」(エレミヤ33:3)と書かれているように、聖書は傾聴者の応答の宝庫といってもよいかもしれません。
文献
川端啓之ほか(1995):ライフサイクルからみた発達臨床心理学.ナカニシヤ出
版.
山本次郎(1999):カウンセリングの実技がわかる本 上巻.コスモス・ライブラ
リー.
by ybible63
| 2006-03-22 11:18
| ★教育シリーズ(子育て)