2006年 03月 22日
教育シリーズ 第12回 |
子育てのうまい母親
佐竹 真次
ある心理学者たち(文献)が、子どもへの対応のうまい母親について語りました。それは、自己受容のよい母親、すなわち自分自身を好きな母親であるということです。そして、自己受容のよい母親の特徴として、以下の3点をあげています。
①子育てについて下安を感じたりイライラしたりすることが少ない。
②子どもの健康、しつけ、能カなどがほぼ思いどおりに育っていると思う。
③母親としての自分を70点以上と評価している。
また、自己受容のよい母親は、赤ちゃんのときから可愛がられて育てられてきた人が多いということです。
それでは、①②③と反対の状態を考えてみましょう。
①の反対:何の援助もなく、母親が孤立して育児にあたっていたり、夫や祖父母から子育てのしかたを常に批判されていたりすると、自信がなくなり、不安が増加してきます。
②の反対:母親が生活のリズムをきちんと維持していないと、子どもも生活のリズムを崩し、健康を害してしまいます。また、母親が常識的な社会的ルールを守っていないと、子どももそれを習得できません。さらに、母親が子どもに大きな成功ばかりを求め、子どものわずかずつの成長を喜べないと、子どもは意欲をなくし、能力が育たなくなってしまいます。
③の反対:自分が100点だと信じるような自信過剰な母親は、過保護や過干渉になり、子どもの自立心を損ねてしまいます。他方、自分を卑下し過ぎる母親は、抑うつ的になりやすく、子どもからの働きかけに生き生きと応じてあげられなくなるために、子どももいずれ自分自身を卑下するようになってしまいます。
①②③の肯定的な特徴をきちんと維持するためには、母親は誰かに支えられ、ほめられ続けなければなりません。母親をほめるための、もっとも身近な人はもちろん夫です。ほめるといっても、たいていの場合、夫は一言で済ませてしまおうとします。効率重視の職場で働く習慣が骨身にしみ込んでいるためかもしれません。しかし、愛情を込めて家事をこなしている主婦にとっては、もっと心のこもったほめことばが必要です。
ここでカウンセリング・スキル「繰り返し」の復習です。心のこもったほめことばを展開するには、この「繰り返し」が大変役に立ちます。下線部が繰り返しの部分です。そして、話を発展させるためにプラスαしています。
夫「今夜の麻婆豆腐、おいしかったよ。」
妻「ありがとう。えのきも入れてみたの。」
(夫:えのきが入っているなんて知らなかった。)
夫「えのきが入ってたんだね。いつもより味があったもん。」
妻「うれしい。どうなるかと思ってたの。」
夫「そう、どうなるかと思ったの?でも、よかったよ。いつもはニンニクとネ
ギと肉だもんね。」
妻「ニラも入れてんのよ。」
(夫:やばい。ニラには気づかなかった。)
夫「あ、そうそう。ニラもね。」
妻「でも、今日はニラがなかったから入れなかったのよ。いつもはたくさん入
れるんだけど。ちょっと入れ過ぎぐらいに。」
(夫:なんだ。やっぱりニラは入ってなかったんだ。ちょっと矛先を変え
ないと、まずいかな?)
夫「いつもはニラをたくさん入れてるんだ。今日のはニンニクは?」
妻「入ってたよ。でも、少しね。多いと子どもが嫌がるから。」
夫「あー、やっぱり入ってたんだ。えのきとのバランスがよかったもん。おい
しかったよ。」
妻「ありがとう。うれしいわ。」
私の経験では、「バランスがよい」ということばでほめことばを締めくくると、非常にうまくいくことが多いようです。たいていの人は「バランスがよい」ということばを嫌いません。人のからだには、心身のバランスが崩れたときに、そのバランスを元どおりに回復させてくれる「ホメオスタシス」という機能が存在するといわれます。いわば自然回復力のようなものです。そのように、人はだれでも意識的にも無意識的にも、常にバランスのよさを求めているので、「バランスがよい」といわれることを喜ぶのかもしれません。しかも、「バランスがよい」ということばは、あいまいであるかわりに、わずかなよさをもほめることができるので、ほめ過ぎになる心配もなく、イヤミと誤解されてしまう危険がないのです。
夫が妻をほめると、妻が傲慢になるのではないかと、心配するご主人方もいます。しかし、それは逆です。妻は結婚した瞬間から、ほめことばを受けることが、なぜか極端に少なくなるのです(それは夫も同じことですが)。妻は、普段からほめことばの慢性欠乏状態に置かれているのですから、多少ほめても適正な水準に近づくだけで、よほどのことがない限り、ほめ過ぎには至りません。かえって、妻と夫が互いにほめ合うようになり、望ましい関係に回復していくのです。
イエス様もそれを喜んでくださるようです。聖書には「あなたがたに新しい戒めを与えましょう。あなたがたは互いに愛し合いなさい。わたしがあなたがたを愛したように、そのように、あなたがたも互いに愛し合いなさい。」(ヨハネ13:34)と書かれています。
では、もし夫婦がいがみ合っていたら、どうしたらいいでしょうか? しばらくの間、だまされたと思って、忍耐強くほめ続けてみましょう。神様はすでにそういう事態をも見通していらっしゃるようです。聖書には次のように書かれています。「悪をもって悪に報いず、侮辱をもって侮辱に報いず、かえって祝福を与えなさい。あなたがたは祝福を受け継ぐために召されたのだからです。」(ペテロⅠ3:9)
文献
岩田崇・深谷和子(1986):「母子のきずな『母子相互作用研究班』6年の成果」
より.NHK教育テレビ(1986年2月20日放送).
by ybible63
| 2006-03-22 17:08
| ★教育シリーズ(子育て)